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頼れるインターン

途中に多少の不況を経験しながらも、戦後四○年間にわたって日本経済がトータルで見れば右肩上がりの成長を維持することができたのは、そういう成長エンジンが常に存在していたからである。 まず一九六○年代から七○年代前半まで日本経済の成長エンジンとしてフル回転したのは、洗濯機・冷蔵庫・掃除機という〃三種の神器″を中心とする家電製品だった。
いまの日本人の暮らしと比べると信じられないことかもしれないが、当時はまだいずれの製品もほとんど各家庭に行き渡っていなかったのである。 ちなみに一九六○年の時点で洗濯機ですら世帯普及率が四○・六ない生活をちょっと想像してみれば、当時の主婦たちがどれだけ強烈にそれらの製品を欲しがったかが実感できるのではないだろうか。
これさえ購入すれば、生活スタイルが一変してしまうほど家事労働が軽減され、大きな利便と自由時間が享受できるのだ。 そのため〃三種の神器″は猛烈な勢いで売れてゆき、一九七五年にはどれも九○%以上の世帯に普及することになった。
次に日本経済を押し上げたのは、一九七○年代後半から本格化したモータリゼーションである。 時間や行き先に規制の多い電車やバスではなく、マイカーという交通手段で何時でも何処へでも自由に移動できることは、当時の人々にとってまさに夢のようなことだった。
一方、家電業界もカラーテレビやクーラーといった新たな成長エンジンを世に送り出すようになる。 一九六○年代の〃三種の神器″に対して、これに自動車を加えた〃3C〃が日本人の購買意欲を大いにかき立てたのである。
テレビや自動車を手に入れるために、多くのサラリーマンが残業や休日出勤をも厭わずに働いた。 これらのモノに対する旺盛な欲望がすべての日本人を突き動かし、経済全体を発展させるパワーとなったわけだ。
自動車や家電製品が売れることは日本の産業全体に大きな波及効果をもたらした。 今成長軌道のピークアウト「欲しいモノ」不在の時代ところが一九八○年代に入ると、家電業界からはそれほどインパクトのある成長エンジンが登場しなくなった。
AV機器やパソコン、ワープロなどの情報機器はいくらか購買意欲をそそったものの、嘗ての冷蔵庫やテレビほどの勢いはない。 もちろん、〃三種の神器″的な製品は現在でもまったく需要がないわけではないが、あくまでも買い替え需要である。

新規需要ならば、乾いた砂が水を吸い込んでいくように普及することによって経済の成長エンジンとなることができる。 だが、買い替え需要ではせいぜい現状維持が精一杯なのだ。
一方の自動車も、一九九○年代に入ると成長エンジンとしての勢いを失ってしまった。 すでに世帯普及率がほぼ八○%に達しており、家電同様、買い替え需要の段階に入ったと見るべきだろそれらのモノが売れるということは、それを作るのに必要な鉄、化学製品、ゴムなどの部品に対する需要が同じ規模で増大することを意味している。
人々の欲望に裏打ちされた〃三種の神器″や〃3C〃といった成長エンジンが、日本経済を強力に牽引してきたのである。 では、これから二十一世紀に向けて日本経済を押し上げる役割を演じるモノは何か。
実は、これが現状では存在しないのである。 試しに自分自身を振り返って考えてみてほしい。
徹夜仕事を、歯を食いしばって耐えてもかまわないと思うほど欲しいモノがあるだろうか。 たとえば、いまでも家電業界からは次々と新しい商品が登場している。
レーザーディスク、ワイド画面テレビ、携帯電話など、まだ世の中全体にあまり普及していない商品は数え上げればきりがない。 それが六○年代や七○年代の冷蔵庫やテレビのように各家庭に吸い込まれていくとは考えにくい。

たとえばワイド画面テレビにしても、残業してまで購入したいとは思わないのではないだろうか。 とりあえず普通のカラーテレビで満足できるわけで、残業するぐらいなら早く家に帰ってそのテレビをゆっくりと楽しみたい、というのが一般的な感覚だと思われる。
もちろん、当面「欲しいモノ」が見当たらないからといって、日本人の欲望がすっかり満たされたというわけではない。 そもそも人間の欲望というのは限界を知らないものだ。
われわれは常に何かしら満ち足りない気分を抱えながら生きている。 いまの日本で多くの人々が欲しがっているモノをあえて挙げれば、何といっても住宅だろう。
何十年にもおよぶ過酷なローンを組んでも手に入れたいと思うわけで、経済の成長エンジンとなる可能性を十分に秘めている。 ところが、サラリーマンが一生かかって払い切れる住宅価格は年収の四?五倍と言われているが、バブル経済によって、住宅価格は年収の一○倍にも上昇し、バブル崩壊後の現在でもまだ七?八倍の水準で高止まりしている。
つまり現状では、住宅は「欲しいけれど買えないモノ」にすぎないということだ。 これでは成長エンジンにはなり得ないのである。
住宅以外にいま日本人が求めているものはといえば、おそらく「時間」とか「ゆとり」といつた抽象的なものだけだろう。 そのため、いずれは時間を手に入れるために省力化に多額の投資をする意欲が高まっていくに違いない。
これも当面は経済の成長エンジンとして期待できるほどのものではないのである。 こうして見てくると、いまの日本人が「欲しいモノ」を喪失した状態におかれていることがよくわかる。
歴史的に見れば、高度経済成長の段階から経済の成熟化による低成長期に入ったということになる。 新たに購入したいモノがなく、基本的に買い替えのための消費だけということになれば、誰もいままでのように一生懸命には働かない。

すると経済全体のパイは拡大せず、企業もピラミッド型の組織を維持できなくなる。 縮小均衡、あるいは現時点での維持均衡のフェイズに入るわけだ。
二番目のポイントとしては、これまで企業のピラミッド型組織を底辺から支えてきた若年労働者の減少が挙げられる。 無尽蔵に欲しいだけ採用できるはずだった若者が、今後はそう簡単に確保できなくなるのである。
したがって、仮に奇跡的な発明によって〃三種の神器″や〃3C〃のように誰もが欲しいと思うモノが現れ、経済全体が再び大きく成長し始めたとしても、もはや年功序列のピラミッドを相似形で拡大していくことはできない。 いくら企業側が大量採用のための原資を用意して労働市場に大きな網を投げかけたところで、その網にかかる魚そのものが少なければ、手の打ちようがないのである。
数年前から問題になっている出生率の低下は、年を追うごとに深刻化している。 「一・五七ショック」に続いて「一・五三ショック」などという言葉が新聞の見出しに躍っていると思っていたら、一九九三年には遂に「一・五○ショック」という具合だ。
夫婦二人で平均一・五人しか子供を作っていないわけだから、確実に人口は減っていく。 まさに国家レベルで取り組むべき重大なテーマだといっていいだろう。
そこで出生率低下の原因として、いろいろなことが指摘されている。 まずに挙げられるのが、経済的な理由である。
全般的な物価高に加え、いまは昔とくらべて子供一人にかかる教育費も莫大になっている。 何より若い夫婦に出産を祷跨させているのは、住宅問題だろう。
子供を三人も四人も産んで暮らせるほど広い住居を構えることは、とくに大都市圏のサラリーマンにとって相当な負担になる。

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